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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

学生とスポーツ

 NHKの日曜夜の連続ドラマ「いだてん」は、日本初のオリンピックマラソンランナー金栗四三氏をとりあげ、日本のスポーツ黎明期を描いていますがあまり視聴率は良くないと聞いています。しかし若者のスポーツが健康増進につながることは、番組の趣旨を超えて間違いありません。
 浜松医大健康社会医学講座の尾嶋教授と柴田陽介氏は、30歳以上の男女1714人を対象に、学生時代でも特に大学時代のスポーツ歴が、その後の健康に影響があることを示しました。その結果、学生時代に何らかのスポーツに打ち込んだと回答したグループで、現在の健康状態が良いと答えた人が74.9%、悪いと答えた人が24.9%でした。しかもスポーツの開始時期に関しては、良い人と悪い人の比率が小学生時代スポーツをしていた群が1.04倍 中学生が1.06倍 高校生が0.87倍であったのに対して、大学時代は1.77倍と圧倒的に高かったといいます。
 一方、東京女子医大八千代医療センター産婦人科の報告では、中高生時代にスポーツを行った女性は骨粗鬆症になりにくいことも分かっています。柴田先生は、大学時代にスポーツに親しんだ方はよき仲間をもちその後の人生においても活動的な生活をするからではないか、と述べています。
 もちろんスポーツはいつ始めても効果があります。高齢者には高齢者にあった運動が大事です。人生100歳の時代、みなさんもご自身の健康は自分で守りましょう。 
(文責 若杉直俊) 

帯状疱疹とワクチン

 2016年7月の記事でこの問題を報告しました。我が国の人口高齢化により、帯状疱疹はますます増加しています。宮崎県皮膚科医会(46施設が参加)の調査によると、1997年に3.61/1000人・年の数字が2017年には6.07/1000人・年と、20年間で68%も増加しています。
帯状疱疹の治療は、発症早期に診断し抗ウィルス薬を用いること。しかし治療が遅れると、頑固な神経痛を後遺症(PHN)として残すのです。予防にはワクチンが有効です。現在日本で摂取可能なのは「ビケン」から発売されている水痘ワクチンです。愛知医大皮膚科の渡辺教授は50歳以降でワクチンを接種すると、リスクを減らすことができると提言しています。さらに2018.3グラクソ・スミスクライン社は、「シングリックス」ワクチンの製造承認を発表しました。これは生ワクチンと異なり、水痘ウィルスの糖蛋白にアジュバント(免疫反応を増強させる物質)を結合したものです。いささか副作用もあるようなので臨床利用はまだ先のようですが、2回の筋注で帯状疱疹発症を91%減らした(N Engl J Med:2015 372:2087-2096)との報告が有り、おおいに期待されるワクチンです。
あわせて渡辺教授は、帯状疱疹を発症した場合はご本人も含めて初めに診察した皮膚科以外の医師が早期に診断し、抗ウィルス剤投与する重要性を述べています。また最近は1日1回投与のアメナメビル(薬品名アメナリーフ)も登場し、従来の薬よりも使いやすい薬剤も使用可能です。高齢者のひりひりするような発疹は、すぐに医療機関を受診しましょう。そして発症予防もぜひ考慮下さい。 
(文責 若杉直俊) 

がんゲノム医療中核拠点病院とこれからのがん医療

 抗がん剤キムリアの光と影の話を前回しました。しかしがんの克服は人類の長年の夢です。国立がんセンター研究所・間野博行所長が座長を務める「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」は昨年、遺伝子パネル検査(がん細胞の遺伝子異常を調べる)を行う事で、一人一人に適合したがん医療が提供できる可能性を提言しました。そしてその検査が、今年度から医療保険の対象となります。
その検査が実施できる病院は全国で11カ所、北大 東北大 東大 国立がんセンター中央病院・東病院 慶應大 名大 京大 阪大 岡大 九大 と定められました。そしてゲノム医療中核拠点病院は近隣のがん拠点病院等と連携しながら、すべての国民がこの医療の恩恵を受けることが出来る体制となっています。しかしこの検査が行われるには1回 数十万円かかります。定まった医療費の中でこの検査が医療費を上昇させると、軽い風邪などは保険診療から外されるのではないかと懸念されています。
そうはいっても、この技術による恩恵ははかりしれません。すべて政治家任せにするのではなく、国民一人一人が医療財政と医療新技術に対して目を向けていただきたいと思います。 
(文責 若杉直俊) 

脳梗塞治療最前線

  前々回、心房細動と心源性脳梗塞についてお話ししました。脳梗塞の原因として、心房細動以上に重要なのが動脈硬化であり、その予防は生活習慣改善であることは言うまでもありません。しかし不幸にして発症した場合、いかに後遺症なく救命するかが問題です。
 兵庫医大脳外科・吉村先生は、第44回日本脳卒中学会(2019.3)において、早期に行われるべき血管内治療の重要性を強調するものの、その地域格差と適応拡大が問題であると述べています。脳卒中治療に携わる医師らで作る血管内治療研究会が行った全国調査では、血管内治療が2016年・7702件から2017年10360件と34.5%増加、人口十万人あたりでは2016年 6.06件から2017年 9.57件と着実に増加しています。そもそも血管内治療とは何でしょうか。脳血管が詰まって起きた脳梗塞を、かつては点滴で血栓溶解し治療していました。しかし現在は発症後6時間以内ならば、太い血管閉塞(主幹動脈閉塞症)にはカテーテルを用いて血栓をつまみ出したり、血管を膨らませるステントを用いて血管の再開通をはかる治療が行われます。この発症後6時間が16時間へ延長されるべきであることも吉村氏が強調しています。もちろん高度の技術が必要です。
さいたま市にはこの高度医療が行える医療機関が連携して、365日脳梗塞の血管内治療が行われる体制ができています。しかし、埼玉県全域ではまだこのシステムが構築されていません。日本全国何処でも、脳梗塞を発症しても最先端の治療ができることを願っています。(文責 若杉直俊) 

白血病新薬キムリアとCAR-T療法

 2019年5月15日、白血病治療薬キムリアの保険適応が決まりその金額が約3300万円と決定されたことが報道されました。聞き慣れないCAR-T療法とはどのようなものでしょうか。
 ヒトの血液中には、細菌やウィルスそして癌細胞などを退治する免疫機能に関与する白血球が複数種類存在します。そのうちキラーT細胞は、ヘルパーT細胞から受け継いだ情報に沿って特殊な抗原を持った細胞を殺します。白血病のひとつB細胞リンパ腫は、表面にCD19という抗原をもっています。しかし通常の状態では、CD19をやっつけるキラーT細胞の増殖がわずかであり、発病とともに白血病はどんどん悪化します。そこで人工的にCD19を認識するT細胞を大量生産し体内に戻して治療するのが、このCAR-T療法でその薬剤名がキムリアです。
 それにしてもその薬価の高価なこと。アメリカでは、5000万円ほどだそうです。しかし、アメリカではキムリア投与で治った患者さんからのみ金額を頂き、無効例では支払われないようです。ノーベル賞のオプジーボも導入時高額な薬価がつけられましたが、現在薬価は3分の1近くさげられています。画期的な新薬が発売された場合、その治療で健康寿命が何年伸びたかで薬価を決める方法があります。癌ならば完全治癒するとして、従来の治療費がゼロになるならば、その金額相当が薬価に反映されても当然でしょう。あるいはアメリカにおけるキムリアのように、無効例には製薬会社に代金を払わないことで高額薬価を認める手もあります。日本ではまだこの方式は用いられていませんが、製薬会社の新薬研究への正当な対価と増え続ける医療費の抑制のはざまに、多くの知恵が必要なのは言うまでもありません。
(文責 若杉直俊) 

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