現在使用されているクスリが、全く別の病気に効果を示すことがあります。これをドラッグ・リポジショニングとよび、先日のNHKのサイエンスゼロでも取り上げられていました。
新薬が開発され、治療現場に投入されるまでには膨大な基礎研究と臨床試験が必要です。かつては、2-3万の化合物から1剤しか実際に臨床応用されないという膨大な労力が必要でした。最近はドラッグ・デザインの方法で、もう少し効率的に開発されています。ところが、現行のクスリでは使用経験も副作用情報もしっかりあるために、本来とは別の病気に効果が確認できれば速やかに適応拡大が望めます。番組では、HANPという心不全のクスリが手術で摘出した後の肺癌患者の再発を防ぐ効果があり、eセレクチンという蛋白が関与する機序も併せて報道されていました。もちろんこれは本来の適応外の使用ですから、現在のところ保険適応されません。現在肺ガン専門医の間で治験が重ねられています。ほかにも、ウィルス性肝炎の治療薬リバビリンが、前立腺癌に効果があることが泌尿器科医の治験で明らかになってきました。これも保険適応外です。妊婦においてアザラシ肢症の児を産む危険がある止痢剤サリドマイドも、一部の白血病への効果があることが知られています。
今回の記事には保険適応外という言葉が多く使われました。ガンなどの治療を大学病院などの専門医から受けながら、高血圧や糖尿病などは地元で治療する方の数は大変多くいます。そのような方が、自分でかかりつけ医に申告し治験を並行して行うのが患者申出療養制度です。我々開業医は、そのような申し出に対して専門医と連携しながら対応する用意がありますので、是非遠慮なくご相談ください。(文責 院長・若杉 直俊)