医学の話題医学の話題

若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

出生前診断(2)

 まだ胎内にある子どもの病気を知り、出産後にそなえることが最近の医学の進歩で可能になっています。羊水が過剰な場合、腹囲が他の妊娠月齢の妊婦さんより著しく大きくなります。この場合胎児の消化管奇形が疑われますが、エコーやMRIなどから出生前診断も可能になりました。心臓奇形の場合、胎児の心臓手術の一部がカテーテルでできるようになり、生まれる前に子宮内で治療する夢のような現実が到来しています。
 出生前の胎児の病気の診断を母体血から行う話題を、18回目にしました。今回同様な手法で、デュシャンヌ型筋ジストロフィー(以下DMD)とターナー症候群を診断に加えるか産婦人科学会の倫理委員会で検討中というニュースが流れました。DMDは男児のみに発症する筋肉の病気で、徐々に筋力が落ち最終的には呼吸筋が機能せず死に至る疾患です。病気の遺伝子はX染色体にあり、母親が2本持つX染色体のうち病的な1本のX染色体が子どもに遺伝し、父親からY染色体の遺伝を受けると発症します。またターナー症候群は両親からうけつぐべき性染色体が1本のみで、X染色体しかないため外見は女性ですが低身長やホルモン異常 2次性徴の欠如などが特徴の疾患です。ちなみにY染色体1本の場合は、受精後胎児として育ちません。
 遺伝子の病気は、残念ながら確実な治療法はありません。以前に記したようにそれが判明したとき、ご両親は胎児の成長を願わず妊娠を中止してしまうことが予測されます。倫理委員会で検討されるのはそのためです。いずれ結論が出るでしょう。哲学者や宗教家も交えての、専門家の納得のいく結論が出ることを待ちたいものです。
(文責 院長・若杉 直俊)