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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

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日本の県別平均寿命

 東京大学国際保健政策学教室の野村博士らは、2015年における日本の県別平均寿命を計算し、その結果をLancet 2017.7.19 オンライン版 で公表しています。
それによると、日本全体の平均は83.2歳であり第1位は滋賀県(84.7歳)で、以下長野県・福井県(84.2歳)奈良県(84.1歳)と続き、埼玉県は38位(82.8歳)で46位沖縄県(81.9歳)最下位青森県(81.6歳)でした。かつての長寿県沖縄も現在は下から数えて2番目でした。常に上位をしめる長野県は今回も第2位で、これは佐久病院の若月先生が農村の公衆衛生、特に減塩運動に力を入れたおかげと言われています。
野村博士は各県の25年前の寿命と比較して、その伸びに注目しました。その結果大きく伸びたのが佐賀県(83.3歳 2015年の22位)で4.2歳の延伸、最低は沖縄県で3.2歳と報告しています。一方健康寿命(他人の介助なしで生活できる状態)は、日本全体で70.4歳から73.9歳と25年で3.5歳延伸した事を報告しています。
死因の調査では、やはり3大疾病①脳血管疾患②虚血性心疾患③下気道感染症が上位でこの10年間変わらず、ただし10年前10位以下であったアルツハイマー型認知症および他の認知症関連死亡が10位以内にはいってきている事も報告しています。この25年間での寿命の伸びが、国民の健康志向とそれをサポートする日本の医療システムによることは確かですが、地域間の差がどこからくるのかさらに解析が必要と述べています。(文責 院長 若杉直俊)

ヨーロッパの麻疹状況

 アメリカ疾病対策センター(CDC)は、ヨーロッパでの麻疹流行に警鐘を鳴らし、海外渡航者に注意を喚起しています。
2016年1月以降、ヨーロッパでは14,000例以上の麻疹患者が報告され,2016年で35例の死亡が確認されています。日本は2015年度に麻疹排除国に指定されていますが、米国同様旅行者のもちこみには要注意です。
2017年 ヨーロッパ15カ国で麻疹の発生が報告されていますが、このうちルーマニアが1-6月で7233例(うち30例が死亡)イタリアでも3000例 ドイツで700例が報告されています。日本の外務省海外安全ホームページでも、8月18日付けで同様な記事が掲載されていますので興味のある方は開いてみて下さい。
日本では1990年4月2日以降に生まれた方は、1歳台と6歳台の2回 予防接種をうけており、接種歴のある方は問題ないのですが接種率が90%台であるのもまぎれのない事実です。ベルギー・フランス・イタリア・ドイツ・ルーマニアへの渡航を予定している若い方々は母子手帳でぜひ確認して下さい。またこの地域から帰国した方は、帰国後の発熱にもぜひ注意して周囲に感染を広げない様にしていただきたいと思います。(文責 院長 若杉直俊)

ピロリ菌感染ほか

このところ筆者の都合でこのコーナーが途切れていましたが、またすこしずつ皆様に新しい情報をとどけるべく再開します。
 2017年8月 国立がんセンターでは、以前に報告したマイクロRNAによる早期癌診断技術の臨床的研究を開始する旨の報道がありました。臨床研究にはまず研究室の試験管レベルの実験から始まり、動物を対象に用い、最後にヒトへの応用をはかるのですが、その段階にいたって、2020年までに実用化に結びつけるとのことでした。癌の広がりや解剖学的位置づけまでは分かりませんが、早期発見に結びつく成果がすぐそこまでと迫っています。日本の癌医療も大きく様変わりするでしょう。
 次にピロリ菌の話題ですが、オーストラリアのマーシャル博士がピロリ菌と胃病変の関係を解明しノーベル賞が授与され、はや10年がたちました。日本でも4000万人といわれる感染者がいますが、胃潰瘍や慢性胃炎の症状がある方は除菌が必要です。ただし、除菌には消化器病の専門医の受診が必要で有り、必ずしもすべての陽性者を対象とはしません。
 国際共同研究グループが国際医学雑誌 Gastorenterology(2017;153:pp420-429)に発表した論文によると、世界の半数以上がピロリ菌に感染していることが推計されるようです。下水道の不備なアフリカが70.1%と最も高く、マーシャル博士のいるオセアニアが24.4%と最も低かったとのことでした。国別では、スイスの18.9%からナイジェリアの87.7%まで大きく差のあることが判明しました。世界人口73億人のうち、実に44億人が感染していることになるそうです。
 日本でも中高年者を中心に高い陽性率が知られていますが、胃癌検診を受診したうえ症状陽性の方は除菌をすることで、胃癌の発生を抑制していくことが重要です。
(文責 院長 若杉直俊)

エボラ出血熱

最近あまり話題に上らなくなったエボラ出血熱ですが、実際西アフリカでの流行もそろそろ終息宣言がでるそうです。その影には、国連保健機構WHO職員の涙ぐましい努力があったのはいうまでもありません。
一方最近の医学誌ランセットでも、朗報が出ています。WHOからの報告で、ワクチンが6000人近くに接種され効果が確認されていることが報告されています(Lancet Vol389:505-518)。ただし重篤な副作用も2人にみられ、まだ改良の余地があるものの、2018年には実用化されるだろうとも報告されています。
 ところが、2017年4月そのリベリアで、原因不明の病気で11人の死亡者が出現し、エボラ出血熱に症状が似るも、別の病気と判断されています。まだこれが流行するかどうかは不明ですあり、その原因すら解明されていないようです。
 新興感染症といって、いままでは一部の風土病であったものが全世界に蔓延する事実がここ数十年でいくつもみられています。たとえばエイズ、エボラ、MERSやSARDなど。そしてまだパンデミック(世界中への蔓延)が見られぬ新型インフルエンザもそれにあたります。(文責 院長 若杉直俊)

自殺者数減少

 厚労省と警察庁は3月23日、2016年中の自殺の状況を発表しました。それによると、自殺者数は21,897人であり、昨年を2,128人下回り 内訳は男性15,121人 女性6,776人だったそうです。その原因の多くは健康問題であり、かつての自殺者3万人の頃のような経済問題は減少しているようです。
 もちろん自殺者が0になるのが理想ですし、厚労省や都道府県では自殺者を減らすためのさまざまな施策を施行してきました。私ども埼玉県医師会でも、年1回 自殺予防のために一般医むけの医学講演会が開催されており、筆者も欠かさず出席していますが参加者が年々少なくなっているのが現状です。
 自殺の原因として健康問題が上がっていますが、多くをうつなどの精神疾患がしめることが知られています。最近リウマチや脊柱管狭窄症などの慢性疼痛を伴う疾患の方々に、少しでも気分がはれるために抗うつ剤を用いることがありますが、これも痛みからくる反応性のうつであり、自殺への配慮が必要とされています。
 自死者を少しでも減らすことが必要であることは皆さんもご理解できるでしょう。ただし自死者は、なんらかのSOSサインをだしていることをみなさんご存じでしょうか。過労死した24歳女性も周囲に疲れたとの言葉を多く残していたそうです。そのサインを見逃さない世の中にしていきたいと思います。(文責 院長 若杉直俊)