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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

ジカ熱要注意

 ペルーで記録的な洪水がみられ、多くの犠牲者がでたことが報道されました。地球の気候に明らかな変調があるのは確かです。気温上昇に伴い、蚊の媒介する疾患が急増しています。南米でジカ熱患者の急増が報道されましたが、北米でも同様な報告がされています。
 2016年1月15日~9月22日、マサチューセッツ州など3地域でジカウィルス感染が確認された妊婦442例の児26例に先天性ジカ熱感染症関連の先天異常がみられています。その内容は、①脳の先天異常あるいは小頭症②神経管障害③眼病変(①と②を伴わない例)④他の神経障害(①~③を伴わない例)です。26例中22例を①が占め頻度で表せば1000例中49.8例となり、小頭症の通例頻度1000例中1.5例の33倍であり、ジカ熱流行前 同地域の2013-14年の頻度2.86例からみても20倍と高頻度でした。(米国CDC・レポート MMWR Morb Mortal Wkly Rep:2017:66:219-222から)
 現在の所、ジカウィルスがどのような機序で胎児の神経障害を起こすかは解明されていません。またワクチンもありません。前にもお話ししたように、成田をはじめとする空港では水際作戦で厚労省の職員が蚊の国内侵入を防いでいますが、いずれ日本でも流行するでしょう。ワクチン等の予防対策がはやくすすむことを願っています。
(文責 院長 若杉直俊)

セルフメディケーション税制

 OTC薬という名前をきいたことがありますか。OTCとは、Over The Counter(カウンター越しに)という言葉の略で、従来医療機関のみで処方していたものを薬局で購入することが出来るようになった薬剤を意味します。テレビコマーシャルでも、お医者さんと同じ薬と称して放送しています。花粉症のアレグラや鎮痛剤のロキソニン、胃薬のガスターなどが有名です。
 WHOでは、自分で自分の病気を治すことをセルフメディケーションと定義していますが、その趣旨で病院受診せず薬局で効果の確実な薬を購入した場合、税制面で優遇する制度が発足しセルフメディケーション税制とよび、平成29年度(30年の申告)から始まります。
 税の還付を受けるためには、まず薬局のレシートを必ずとっておくことが重要です。購入された薬品の外箱には、セルフメディケーション 税控除対象品 の刻印がおされているはずです。くわしくは薬局で相談下さい。所得税・住民税を支払っている家庭で、年間1万2千円以上の購入で対象になります。従来の医療費控除は10万円以上でしたから、ハードルは下がったわけです。ただしこの控除にはもう一つ条件がつきます。申請者が、1年間に会社や自治体の各種検診をうけていることが前提条件です。
 医療者として各種の検診を多くの方に受けて欲しいのですが、現在の受診率は40%前後であり、国もアメとムチで国民に健康を強いる時代となってきているようです。
(文責 院長 若杉直俊)

禁煙の話題

 日本禁煙学会の禁煙治療と支援委員会(委員長・藤原久義先生)は、若年者(35歳未満)と未成年者(20歳未満)の禁煙治療指針を学会誌に発表しました。(日本禁煙学会雑誌2016.11:145-151)
 それによると20歳以上35歳未満では禁煙治療の標準手順書どおり、つまり禁煙指導とニコチンガムやパッチ等で徐々にニコチンへの依存を減らすか、バレニクレリン(商品名チャンピックス)を内服することで、喫煙時の不快感を誘発して喫煙習慣を解消するかの2通りがあります。一方、未成年においてはカウンセリングが基本であり、喫煙のマイナス面をしっかり理解してもらうことが重要とされています。現在の所、薬物療法に確実な効果を認める報告がなく、どうしてもというならニコチンパッチやガムによる離脱療法を選択すべきとしています。
 以前にくまもと禁煙フォーラムの話題も提供しました。未成年層にいかに喫煙には弊害があるかを浸透させるために、橋本先生が地道な努力を積み上げてきた事実を述べました。学会での指針でも、同様な結論を得ています。現在タバコを吸う方々にもぜひ知っていただきたいし、未来あるこどもの喫煙を出来るかぎり減らす運動を展開したいと思います。 (文責 院長 若杉直俊)

高齢者の定義

 マスコミ等で報道されている、高齢者を75歳以上と定義した事実がさまざまな憶測を呼んでいます。年金受給開始を遅らせたり、政府の医療保険・老人負担割合を減らしたりするのでは、とあまりいい噂はありません。
 この議論は、日本老年医学会・高齢者の定義を再検討するワーキンググループが、2017年1月5日に開かれた記者会見で「75彩以上を高齢者と定義する」と提言したことから始まりました。
 座長の大内尉義氏(前東大医学部老年医学科教授)は、「高齢者の暦年齢を75歳以上とすることは、精神・身体活動能力に関する時代的変化、国民の意識と一致している。これを契機に、高齢者の労働のあり方を議論してもらいたい」と述べています。
実際内閣府の調査で、高齢者を65歳以上と意識する国民の割合が5%程度であったという事実とも合致します。さらに2013年の調査では、日本人の健康年齢(積極的な医療も介護も不要な状態)は男性で71.11歳 女性で75.56歳と世界1位であることが、世界的な医学雑誌ランセットに報告されています。しかし男性においては、75歳は平均健康寿命をオーバーするために、この定義を高齢者福祉への支出削減へつなげるには無理があるのではないでしょうか。筆者も一国民として、この議論を見守っていきたいと思います。(文責 院長 若杉直俊)

消毒とは何か

 102回目のコラムで、カブトガニによる毒素検査の話をしました。20世紀前半の医学は感染症の克服が大きなテーマでした。結核にしろ、マラリアにしろ世界規模の感染症にはいまだ人類は勝利を得ていません。しかし1つの個体におきる感染性疾患には、消毒法と抗生剤の発見とワクチンの開発により勝利を得ることが出来ました。
 そもそも感染症とは、ヒトにとって有害な微生物によっておこされる疾患です。その侵入経路は、皮膚その他への接触・食事などの経口摂取・傷口からの侵入・蚊などの媒介動物のからの刺入・不衛生な手術時など多岐にわたります。さらに病原微生物も、細菌・ウィルス・微細な昆虫等さまざまです。特に19世紀までの医療では、外科的手術は麻酔もなく消毒法も確立せず、危険な行為でした。
 19世紀パスツールは、腐敗の原因が汚れた空気中の細菌の仕業であることを究明しました。その後様々な感染性疾患の原因が細菌によって起こることが判明し、その原因菌の発見があい続きました。一方細菌の多くは数ミクロメーターのサイズであり濾紙で濾されるのに対して、濾紙を通り抜ける感染性微生物の存在が1892年ロシアのイワノフスキーにより発見されました。そして約40年後スタンレーによって電子顕微鏡でその存在を直接見ることが出来るようになったのです。それがウィルスです。スタンレーは1946年のノーベル医学生理学賞授賞者です。
 以上述べた細菌・ウィルスさらにその後同定されたクラミジア・リケッチア・原虫などの病原微生物を、可能な限り体内侵入阻止をするのが消毒です。細菌が高熱に弱い性質を利用した煮沸消毒は比較的初期から採用されています。アルコール消毒は、20世紀初頭ドイツの衛生学者ペッテンコッフェルが提唱し世界中に広がりました。活性酸素を働かせ、細菌やウィルスを死滅させるのが塩素消毒やエチレンオキサイドガスによる消毒です。ところで、これから到来する冬季の風邪予防のうがいも消毒の一つです。原始的な水分で洗い流す方法ですが、大いに効果があります。ぜひこれからは、うがい手洗いの励行を。(文責 院長 若杉直俊)