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若杉院長が医学の最新の話題を取り上げて書きます。なお、記事に関するご質問、お問い合わせにはお答えしていません。

記事一覧

遺伝子治療(2)

 AADC欠損症の治療に続き、実現しそうな遺伝子治療の対象が筋ジストロフィーです。そのなかでも日本人に多くみられる福山型筋ジストロフィー(FCMD)がそのターゲットです。FCMDは日本人に多く現在患者数は1000-2000人います。昨年なくなった東京女子医大名誉教授福山幸夫先生が発見し、その名を冠した疾患です。
 FCMD遺伝子に異常が起きると、その生成タンパクであるフクチンに異常が発生し、症状としては歩行をはじめとする運動能力の低下がみられ、最終的にはねたきりになります。高度な知能・言語発達遅滞もみられます。平均寿命は17歳前後です。
 この治療に対して、神戸大学のグループはエクソントラップ阻害療法という遺伝子治療を試みました。これは、異常な遺伝子を読み込ませない薬(アンチセンスオリゴヌクレオチド)を投与して、細胞内で異常な遺伝子の働きを阻止し、正常に働くフクチンを作り出す治療です。試験管内の実験では成功しています。この方法は世界的にも患者の多いデュシャンヌ型筋ジストロフィーでも試みられている治療です(残念ながらまだ実用化されてはいません)。
 日本人が発見した病気を、日本人のグループが画期的な薬で治療する、われわれ医学に携わる人間にはワクワクするようなお話ですし、患者さんにも光明になるでしょう。(文責 院長・若杉 直俊)

帝王切開と自然感染

 日本では現在はまだあまり話題にはなりませんが、帝王切開分娩直後 児に自身の腟液塗布を求める母親がイギリスでは増えているといいます。綿棒に付着した腟液を新生児の口や目元、皮膚に塗りつけることを医療関係者に要求するようです。
 完璧な除菌がかえってヒトの免疫を低下させることは、何回か述べてきました。しかし、新生児にわざわざ経腟分娩の環境をまねて、人工的に菌感染を行う事がよいかはまだ不明です。ロンドンインペリアルカレッジのJ.Cummigton博士は、自身の施設内では要求されても実行せず、帰宅後ご両親が自己責任で行う行為は自主性に任せるとイギリス医学会雑誌(2016年2月23日号)で述べています。
 経腟分娩児では、新生児結膜炎を防ぐべく出産直後に抗菌点眼薬をさします。さらに経腟分娩では、通常あまり毒性のないグループBブドウ球菌(GBS)感染症が起こることもしられています。この腟液塗布は、児の腸内細菌叢によい影響を与えるだろうと信じての行為だそうです。全く否定はしませんが、博士の態度が多くの医療関係者の立場であると思います。さらに博士は、新生児が感染を起こした場合そのような行為が行われたことを、両親がフランクに医師に話せる環境も重要だと語っています。
(文責 院長・若杉 直俊)

人生の最終段階における医療

 今回は長い題をつけました。この名称は、厚労省が従来「終末期医療」と表記していた概念を言い換えたものです(2016年3月)。これからは、新聞や報道番組でどんどん出てくる表記でしょう。そのガイドラインも厚労省のホームページにのっています。(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/saishu_iryou/index.html
 そのポイントは、人生の最晩節に当たり ①患者測は医療側から十分な情報をききとること ②医療行為の中止や変更については、多くの医療ケアチームでとの話し合いで決定すること ③医療側は疼痛や不快などを極力緩和する手段をとること ④生命を短縮させる安楽死はガイドラインでは扱わないこと です。
 人生の最終段階では、医療側はご本人も含めて極力情報を提供します。いわゆるインフォームド・コンセントです。患者側でも、医療に全面的に任せることなく、医療と一緒に一つ一つ決定していきましょう ということです。ただし、突然の意識障害や脳卒中などでご本人の意思が確認できない場合もあります。ガイドラインでは、家族が本人の意思を推定できる場合はそれを尊重すること、出来ない場合は最善と思われる道を医療側と家族が話しあって決定すること、家族すらいない場合は医療側ケアチームが本人にとって最善な道をさぐること が書かれています。
 興味のある方は一度目を通してください。(文責 院長・若杉 直俊)

AADC欠損症

 当院では1年前から、障がい児を日中お預かりしています。まだ10名弱ですが、肢体不自由があり食事もできないお子さんもいます。多くの場合、新生児仮死(出産が重い場合など)やてんかんなどの基礎疾患を持つのですが、遺伝子レベルの異常がある方もいます。遺伝子異常のあるお子さんは、どんなに産科医ががんばっても障がい児として産まれてきます。ところが医学の進歩により生まれつき欠損した遺伝子を体内に送り込むことにより、正常化する治療が可能になってきました。日本で実際に行われた第1号の遺伝子治療がAADC欠損症治療です。
 AADC欠損症とはどんな病気でしょうか。AAは芳香族アミノ酸を意味します。このAAからドパミンやカテコラミン、セロトニンなどの神経伝達物質を作る際働く酵素がAADCで、これが先天的に欠損すると手足の筋肉の動きが悪くなり、脳性麻痺の状態になります。日本では現在5家系6人の患児がいます。全世界でも100例未満です。症状は生後1ヶ月以内に発症し、目を上転させる発作が特徴的でほかにもジストニア(不随意運動の一種)もめだちます。
 治療は、2015年6月にはじめて山形の症例に実施されました。幸い順調な経過をたどっています。このご家族の姿をテレビ朝日では何回か放映しています。臓器移植と同じように、21世紀の夢の治療が遺伝子治療です。理論的には理解できても、実際どのように行うか膨大な基礎実験が必要な領域です。ほかにも遺伝子が関わる病気はたくさんあります。それらにこの治療が適応し治癒の見込みできるとしたら、それこそ多くの方々の福音となるでしょう。
(文責 院長・若杉 直俊)

薬剤副作用とPMDA

 免疫チェックポイント療法の話を以前に掲載しました。皮膚癌や一部の肺癌等に用いる一種の抗がん剤です。その薬オプジーボ投与者のなかから、糖尿病を発症する方が続けて報告されました。ガンも怖いですが糖尿病も侮れません。
 このように予期せぬ副作用をもつのが薬の宿命です。そこで薬剤によると思われる副作用が出現したときに患者さんが頼るのが、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)です。所轄するのはもちろん厚労省で、インターネットではhttp://www.pmda.go.jp で検索できます。
 薬や医療機器による副作用かも、と思ったときにはまず医師に相談してあわせてこの機構の情報をとるのがよいでしょう。そのためにも医療機関で処方された薬の情報を、お薬手帳や薬剤情報を記載した書類で必ず確認することが重要です。さらに、自分にあわない薬があればその薬品名をお薬手帳などに記載しておくことも重要です。よく、ほかの医療機関にかかりながら別の医療機関を受診した際、何が処方されたかわからないという方がいます。薬は飲み合わせによって副作用が出るものもあります。したがって、そのようなことがないように薬剤情報が正確に医師や調剤薬局に伝わる方法を、患者さん自身でご用意ください。(文責 院長・若杉 直俊)